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なぜ「村上春樹」本はいつもバカ売れするのか(プレジデント) - Yahoo!ニュース [web]

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20091002-00000001-president-bus_all

■発売前から増刷! 春樹ブランドの驚異

 今年の出版界の最大の話題作といえば、村上春樹の5年ぶりの長編である『1Q84』だ。初版は一巻20万部、二巻18万部だったが、予約が相次いだため、発売前に増刷が決定。その後も増刷を重ね、発売後12日間で計100万部を達成した。これはミリオンセラーの最短記録だという。
 どうして異例ともいえる売れ行きを見せたのか。
「『1Q84』の文学的価値が評価されたから」という理由では、発売前から予約が殺到したことの説明がつかない。作品が世に出る前から注目を集めたのは、「村上春樹」というブランドがなせるわざだと考えるべきだろう。

 ブランドは、いまや製品やサービスの売れ行きを大きく左右する要素の一つになっている。ただ、かつてはそう捉えられていなかった。ブランドは製品やサービスを他と識別するためものであり、伝統的なマーケティングにおいては、せいぜいプロダクトの下位変数という扱いしかされていなかった。
 ブランドの意味づけを大きく変えた立役者が、デービッド・A・アーカーだ。従来は識別手段にすぎなかったブランドを、アーカーはエクイティ(資産)と位置づけ、戦略的にマネジメントする必要があると説いたのだ。
 ブランド・エクイティという概念の登場で、企業のブランド戦略は180度変わった。まずブランド・マネジメントのスパンが長期化した。アーカー以前の1980年代の米国は、MBAマネジメントの全盛期。ブランド・マネジャーは短期間に成果を出すことを求められ、ブランドの育成より、ブランドを消耗して利益を捻出することに終始せざるをえなかった。しかし、ブランド・エクイティの概念の登場で、長期的なスパンでブランドを育てる発想が生まれた。

 所詮はコストの一つであり、少なければ少ないほどいいと捉えられていたSP(販売促進)費・広告費などのコミュニケーション・コストも見直しが進んだ。ブランドが資産であるなら、長期的なブランド構築に寄与する広告費は資産を増やすための投資となる。POPやバックマージンといった目先の売り上げを伸ばすためのSP費は、アーカーの登場により広告費に置き換わっていった。
 では、ブランドの資産とは、具体的にどのようなものを指すのか。アーカーは、ブランド・エクイティを構成する要素として、「ブランド認知」「知覚品質」「ブランド・ロイヤルティ」「ブランド連想」の四つをあげている。「村上春樹」を例に説明していこう。

 一つ目のブランド認知とは、文字通りブランドの認知度である。市場において多くの顧客に知られているほど、ブランドの資産価値は高くなる。村上春樹はベストセラーを連発する国民的作家であり、海外でもその名を知られている。
 二つ目の知覚品質は、機器などで測定される客観品質ではなく、顧客に受け止められる主観的な品質を指す。文学はもともと主観的なものだが、村上春樹の作品が本当に理解されているかどうかは別にして、読者が「よい作家だ」と思えばブランドとしての価値は高まる。
 アーカーが三つ目の要素としてあげたのが、ブランド・ロイヤルティだ。ロイヤルティの水準が高いブランドには強い支持者が存在し、競合ブランドには簡単にスイッチはしない。“ハルキスト”と呼ばれる熱狂的な読者を持つ村上春樹は、この点でもブランドの資産価値が高いといえる。
 もう一つ、ブランドの資産価値を測るうえで欠かせない要素が、ブランド連想だ。あるブランドが提示されるとき、私たちは製品カテゴリーやベネフィット、属性やキャラクターなど、さまざまな事柄を思い浮かべる。例えば村上春樹なら、「純文学」「ノーベル賞候補」「ジャズ」「スコット・フィッツジェラルド」といった具合だ。
 アーカーのよきライバルであるケビン・レーン・ケラーは、これらの事柄をノードと呼び、ノード同士が結びつく連想ネットワーク型記憶モデルでブランド連想を説明した。強く、好ましく、ユニークなノードと結びついたブランドほど、資産価値も高い。
 これらの四つを積み上げたものがブランド・エクイティである。四つの要素がそれぞれ高水準にある「村上春樹」の新作が発売前から注目を集めた理由も、これで合点がいくはずだ。

■ブランド「希釈化」には注意が必要

 四つの価値を高めることで強いブランドを構築できるが、資産というからには負債も存在することに注意したい。例えばブランド連想では、必ずしもポジティブなノードと結びつくとは限らない。企業が個人情報流出事故を起こせば、コーポレート・ブランドが「個人情報流出」というネガティブなノードと結びつき、ブランド・エクイティを低下させる可能性もある。
 少々古い事例だが、乳製品のトップブランドだった「雪印」は度重なる不祥事でブランドの資産価値が著しく低下。分社・再編後の市乳事業は新ブランド「メグミルク」の立ち上げを余儀なくされた。負債の大きさによっては、積み上げてきた資産も一気に消し飛んでしまうのだ。

 アーカーのブランド論の中でもう一つ、注目しておきたい考え方が「ブランド拡張」だ。ブランド拡張とは、ある製品で成功をおさめたブランドを、別の製品カテゴリーや業種に用いることである。かつてホンダは二輪、四輪で米国に進出して成功をおさめた後、芝刈り機やマリンエンジン、除雪機などを「ホンダ」ブランドで展開した。
 このように新製品の市場導入時に資産価値の高いブランド・ネームを利用すると有利なスタートを切ることができ、プロモーション費用も節約できる。ブランド拡張が役員会でもっとも支持されやすいといわれる所以も、ここにある。
 ただ、ブランド拡張にもデメリットはある。新製品が失敗すれば本体まで傷つくリスクがあるし、成功したブランドに安易に頼ることで、新しいブランドを立ち上げるチャンスを自ら放棄しているという見方もできる。
 希釈化も要注意だ。ブランドを広げると、焦点がぼやけて特性が失われ、ブランドの寿命を縮める恐れがある。その点では、大塚製薬の「オロナミンC」に拍手を送りたい。90年代、サイズで差別化されたビタミン飲料が他社から発売されてヒットしたとき、同社はオリジナルにこだわってブランド拡張をしなかった。「オロナミンC」がロングセラー商品となったのも、ブランドのイメージを守り続けてきたからである。

 スタートダッシュを決めて、短期的に利益をあげるのか。それとも長期的にブランドを育成してロングセラーを狙うのか。それは企業の戦略によって違う。いずれにしても、企業はブランド拡張のメリット・デメリットを見極めたうえで、ブランド戦略を練る必要があるだろう。


●デービッド・A・アーカー
『ブランド・エクイティ戦略』(1991年)
【David A.Aaker】:ブランド論の大家。ブランドを資産としてとらえる「ブランド・エクイティ」の研究を展開し、ブランド論の火付け役となった。アンゾフの全社戦略を発展させた功績も大きい。
タグ:経済政策 WEB
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