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ニュース - 環境 - アルプスの氷河融解、教会の祈りも逆転(記事全文) - ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト [web]

アルプスの氷河融解、教会の祈りも逆転
Laura Spinney in Fiesch, Switzerland
for National Geographic News

August 13, 2012


 7月31日の明け方、スイスのフィーシュ村からおよそ50人が徒歩で出発した。アルプスの4000メートル級の山々の上に日が昇るころ、行列はゆっくりと山腹を登って涼しい松の森に入り、小さな教会の前で立ち止まった。



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 午前7時30分には人々の数は100人ほどに増え、マリア・ハイムズーフンク(Maria Heimsuchung=聖母マリアの御訪問)礼拝堂の中に入りきらなくなったため、臨時の祭壇が建物の外に設けられた。

「氷河は氷、氷は水、水は命です」と唱えると、トニ・ベンガー(Toni Wenger)司祭はそこより上方にある氷河の融解を止めてくれるよう神に祈った。典礼に用いるいくつかの肝心な言葉を変更することで、ベンガー司祭は過去350年の間、氷河を押し戻してくれるよう神に祈ってきたカトリック儀式の内容を逆転させた。地球温暖化の影響がアルプス山脈にはっきりと表れるようになった今、バチカンもこの変更を承認している。

 気候変動の影響は山岳地帯で顕著だ。スイスアルプスの気温は20世紀中に地球平均の2倍上昇した。現在、スイスの氷河は1年に平均10メートル後退している。そのうえ、アルプス地方では過去数世紀に比べて降水量と風速が上昇していると報告されている。

◆寒冷化に苦しんだ時代

 敬虔なカトリック信者であるフィーシュ村とフィーシャータール村の人々は、ヨーロッパが小氷期だった1674年から年一度の巡礼を行っている。

 両村の上方にあるアルプス山脈最大の2つの氷河、アレッチ氷河とフィーシャー氷河はそこから200年間成長を続け、1850年ごろには最大の長さに達した。当時のアレッチ氷河の長さは26キロ、フィーシャー氷河も同様のペースで成長したが、アレッチより小さい氷河の当時の正確な長さは不明だ。

 2つの氷河の間にある湖メィエレンゼーにアレッチ氷河の氷が落ちると、湖の水があふれた。1000万立方メートルの水が下方の谷に押し寄せ、村が水浸しになり、建物が壊れ、死者が出た。19世紀まで貧困にあえいでいたこの地域の人々には、また村を再建するしか方法はなかった。

 幾度もこのような災害に耐えてきた村人たちは、地元イエズス会の協力を得て、毎年7月31日に巡礼を行うことを決めた。7月31日は、イエズス会の創立者である聖イグナチオ・デ・ロヨラを記念するカトリックの祝日にあたる。

◆祈りが聞き届けられた?

 1860年代に入ると氷河は後退を始め、今なお後退し続けている。現在、アレッチ氷河は長さ21キロ、幅0.8キロ、深さ約900メートルで、1864年当時と比べて長さ5キロ、深さ200メートル分が消失している。

「これまで氷が後退するよう祈ってきたが、われわれの祈りは効きすぎた」と、山岳ガイドでフィーシュ村のあるゴムス郡の行政長官を務めるヘルベルト・フォルケン(Herbert Volken)氏は話す。

 2009年、地元教区会はバチカンに祈祷の文言の変更許可を申請した。1年後、教皇庁は申請を承認し、フォルケン氏は新たな祈りが以前と同じく効力を発揮することを期待している。同氏によると、村人たちはもう洪水を心配することはないが、代わりに今では飲料水や電力、家畜の飼料の不足や、森林火災の増加を懸念しているという。

◆ゆっくりとした変化

 気候変動の影響は今後もさらに拡大すると予想される。アレッチ氷河とフィーシャー氷河は、他の多くの小さな氷河とともに、ヨーロッパで最も重要な水系の1つであるローヌ川水系に流れ込んでいる。

 ベルン大学の地理学者で氷河の歴史を研究するハンスペーター・ホルツホイザー(Hanspeter Holzhauser)氏によると、アレッチ氷河の長さは1年に23メートルずつ後退しているという。

 ホルツホイザー氏は、歴史的記録の調査や、氷床コア、化石土壌、氷中に閉じ込められた樹木などの分析を通じて過去数千年の氷河の変化を追跡し、気候変動の明らかな痕跡を発見している。例えば、気候が温暖だった青銅器時代には、アレッチ氷河は現在より610~915メートルほど短かった。しかし、当時の温暖な気候は人間の活動の影響を受けていないとホルツホイザー氏は指摘する。「新しい祈りが、人間の引き起こしている地球温暖化への関心を集める効果しかないとしても、それはそれで有益なことだ」。

 内容を改めた祈りがどのような効果をもたらすにせよ、効果が表れるのはまだ先のことになりそうだ。過去の傾向から考えて、急速な温暖化とそれに伴う氷河の融解は少なくとも今後30年は続くとホルツホイザー氏は確信している。

Photograph by Maxime Schmid, European Pressphoto Agency
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20120813002&expand#title
タグ:環境 WEB 思想
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