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政友会の反ファシズム論 [読み物]

 政友会にとって五・一五事件は衝撃だった。たとえば政友会の衆議院議員星島二郎は言う。五・一五事件とは「政党の一部腐敗を憤激する余りに全政党政治を否認し、そのために先ずその首領を斃して了おうといったような極端ファッ〔シ〕ョの一表現」だった。「政党政治を否認し、進んでは議会政治をも打ち壊さんとする意味に於けるファッショは、断固として排撃せざるを得ない」。
 欧州ではイタリアでムッソリーニのファシズムが台頭していた。星島は批判する。「ムッソリーニは偉いかも知れんが、イタリイの民衆と日本の民衆を同一視されては困る」。星島の見るところ、貧困層の多いイタリアの現状は、幕藩体制化の日本の現状に等しい。独裁政治は続くはずはない。星島はイタリアだけでなく「亦ドイツがどんなになっても結局議会を守らなければならない」と議会政治を擁護する。
 他方で星島は認める。「政党政治が漸くここに四五年来本調子となり来った時に於いて、既に一部にその弊害の現れて来たことは事実である」。どうすれば政党政治の悪い点を克服できるのか。五・一五事件の誘因となった議会政治の体たらくを反省する星島は、「新議会主義」を提唱する。
「新議会主義」とは、憲法改正をともなうような議会政治の改革だった。いかにそのまま引用する。
「議会を構成する政治家の頭が悪ければ変えてかからなければならぬ。憲法に改正を要する点があれば、これも変えなければならぬ。両制度に不都合があればこれも変えるがいい。選挙法も同断、現行法が不完全ならばこれも完全にし、その他財閥擁護の結果となれる現行の諸財政諸税政策も大立直しを断行して、然る後に議会を守れというのである。或はこれは革命に近い程の大改革になるかも知れないが、それも議会政治の完成のためには止むを得ない」。
 自ら招いた議会政治の危機に立ち向かうためには、ここまで徹底しなくてはならなかった。
 犬養内閣の崩壊後、次の内閣を組閣したのは、ロンドン海軍軍縮条約に賛成した海軍「穏健派」の長老、斉藤実だった。非政党内閣=「挙国一致」内閣に対して、鈴木喜三郎新総裁が陣頭に立ち、政友会の幹部は全国遊説を開始する。各地での大会はつぎつぎと決議文を採択した。優先順位の第一位は「政党政治ノ完璧ヲ期ス」だった。

V 危機のなかの二大政党制 3 二大政党のファシズム批判
142~144頁
井上寿一『政友会と民政党 戦前の二大政党制に何を学ぶか』中公新書2012
タグ:読み物 歴史
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