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アファームティブ・アクション [言葉の定義に拘り過ぎ]

 アファームティブ・アクションは、アメリカではリベラル派の代表的な政策の一つであり、その可否をめぐって激しい論争が繰り返されてきた。大学や大学院の入学者選考におけるエスニック少数派に対する優遇措置を題材に、もう少し詳しく検討してみよう。アファームティブ・アクションには、①あらかじめ人口比に応じた別枠の入学割り当てを設けるクオータ制、②少数派であることを一定の限度内でプラスのファクターとして評価する制度など、いくつかの種類がある。②の場合、高校や大学での学業成績、エッセイや共通学力テストのスコアだけではなく、エスニック少数派であることを、スポーツや文化活動に秀でているといった要素と同様にプラスの判断材料として勘案して合否が決められる。
 こういった措置に対し、学力の面では合格水準に達しているものの白人であるがゆえに不合格となったのは、憲法で保障された機会均等の権利の侵害にあたるとして、不合格者が大学を訴えるケースも出てきた。こうした「逆差別」の主張を支えるのは、個人が才能と努力によって身につけた実力(merit)に応じて資源が分配されることが多くの場合最善の結果をもたらす、という確信である。連邦最高裁判所は、1978年に厳格なクオータ制は違憲だが、個人を単位として人種の違いを考慮する選考は合憲であるとの判決を下したが(カリフォルニア大学理事会対バッキー事件判決)、その後も類似の訴訟が起こされる等、論争は続く。逆差別の主張以外にも、優遇措置は個人を個人としてではなく、何らかのエスニック集団に属する者として扱うため、かえって「人種」というカテゴリーを固定化してしまっているという批判や、真の問題の所在は、人種であるというよりは経済的格差にあるといった指摘もある。
 他方、アファームティブ・アクションを擁護する議論には、まず、少数派に加えられた過去の差別や不正に対する償いとしてこれを正当化するものがある。また、レベルの高い大学や人気のある職種に少数派がその人口比に応じた比率を占めることができないのは差別の構造が残存するからであり、結果の平等の観点からこれを政策的に正す必要があるという主張もある。さらに、少数派の集団をリードし、その規範となるような人材を優先的に育成することの社会的効用の大きさを根拠とする意見もある。今日最も有力なのは「多様性」を重視する立場からの、異なる文化的背景をもつ学生が共に学ぶことは、少数派のみならず多数派にとっても多大なる教育効果があるという議論である。
 エスニック少数派を優遇するミシガン大学の入学者選考は違憲であるとの訴訟に対し、連邦裁判所はバッキー判決事件を踏襲する判決を下し、あらためてアファームティブ・アクションの合憲性を再確認した(2003年6月)。

第1部 chp.6 sec.1, 122頁 COLUMN 6-1
『政治学』(初版)有斐閣2003
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